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バックナンバー(08年06月〜08月)
☆このページは映画などの感想ですので、特に断りなくネタバレあります。悪しからず。☆

『月曜日に乾杯!』('02 フランス/イタリア) たぶん説明すればするほどつまらなくなる映画ならではの面白さ

原題は単に『月曜日の朝』。邦題は「乾杯!」とかやっちゃっていきなり雰囲気ぶち壊しだ。ストーリーは画家志望だった工員の男が、ふとベネチアを訪問して、ふらふらして帰ってくるというだけの話。映画の構成は、短いエピソードの組み合わせで、説明は最低限。セリフも少ない。少しずつ人物や状況が分かってきたところで、次の場面に切り替わっていく。一つ一つの場面は緻密に作られていて、ユーモラスで皮肉に富んだ工場の場面、なかなか状況が飲み込めない訪問先あれこれ、窓の眺めを繰り返し使う手法、ひとつひとつが偶然のようでいて実は巧妙に組み立てられている。それは我々の生活がそもそもそういうものだからで、ちょうど、他人の生活を覗き見したようなことになるのだが、そこは日常の中のちょっとした非日常を描いているので、非常に鮮明な夢を見たかのような気分になる。これは小説でも、演劇でも、TVドラマでも成立しない世界だろう。かといって、映画をあまり見ない人に勧めたとして、映画好きになるかというとわからないけれど。

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『ライラの冒険 黄金の羅針盤』('07 アメリカ ) ほんとうはかなり哲学的だが

結局劇場に見に行くことはありませんでしたが、借りてしまいました。原作を読んだときに感想を書きましたが、映画のほうはやはりファンタジーの映像版として予想通りの仕上がりなので、ハリーポッターやら指輪やらナルニアやらの延長線上にあって、まあこんなもんかな、といったところ。原作にあったけっこう明確な反教会色や、ダストをめぐるSF的な展開は、まだここまでの部分では仕方ないところではありますが、映画ではあまり明瞭ではなく、物足りなさがかなり感じられました。今後、異世界を行き来し、大きな戦いにつながる続編は作られるのでしょうか。

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『その名にちなんで』('06 アメリカ・インド) ウクライナ読みではホーホリ

『モンスーン・ウェディング』の監督ミーラー・ナイールの作品で、『停電の夜に』のジュンパ・ラヒリ原作の内容もインドからアメリカにわたって成功した家族の物語。ニューヨークとコルカタを行き来する中で民族性や自分の出自、とりわけゴーゴリという名前の由来を受け入れていく主人公の人生が軸になっている。成功した印僑の物語として見てしまうと、興味深いがわかりやすい展開で、WASPの女性ともベンガル人の女性とも結局破綻してしまう関係はあまりに図式的かもしれない。とはいえ夫を亡くしてインドに帰ったアシマが実際にはヒロインで(しかも・・・いつもこればかりで済みませんが・・・、すごい美人!)、彼女の物語として完結していることに立ち返ると、ふっと映画全体が落ち着いてくる。

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『レナードの朝』('90 アメリカ) 目覚めのない夢の目覚め

オリバー・サックスの医療エッセイに基づいた映画化作品としてよく知られた一本。嗜眠性脳炎に当時は画期的な新薬だった L-ドーパ が劇的に効いたものの、やがて投与量が増えていき(当時はたぶん分解阻止剤がなかったとすればなおのこと)、効かなくなる。今日ではよく知られている特性であるし、パーキンソン病の身内をもつ者から見ると、実にハラハラさせられる展開であるが、当時の状況としてはやむをえないところだろう。久々に見直した映画だが、以前に見たときに比べて、やや違和感を感じたのが自分でも意外だった。映像の格調の高さ、医師と看護師の関係といった、いかにもハリウッド映画らしい造りの型が気になってしまうことが大きい。そうなるとやはり見所はロバート・デ・ニーロの迫真の演技ということになる。とても理解しやすいキャラクターになってしまったロビン・ウィリアムズは損な役回りだ。

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『俺たちフィギュアスケーター』('07 アメリカ) 三枚刃よりよく切れる

 えらく悪趣味な演出とえらく少女趣味な演出で人気を二分する男子フィギュアスケーターが金メダルをめぐって乱闘してしまい出場停止に。しかしルールの隙を突いてコーチは二人を組ませてペアに出場させる。双子の姉弟ペアの妨害にもかかわらずアイアンロータスなる北朝鮮ペアが挑みながら失敗(この映像も逝っちゃってます)した伝説のワザを成功させる・・・という、もうストーリーからしてまったくフィギュアスケートをおちょくった内容。コメディアンであるウィル・フェレルの濃さと、金髪で口半開きのジョン・ヘダーの中途半端さの組み合わせは絶妙というべきだ。二人ともスケートはかなり巧くなったようだが、これというシーンはCGというのは、かえっていかがわしさを増してこの内容にはマッチしている。これだけばかばかしい内容なのに、アメリカの有名なスケーターたちが何人も顔を出しているのが不思議といえば不思議、あるいはこれがアメリカスポーツ界の懐の深さかもしれない。ナンシーケリガンなんかウィル・フェレルにお尻がどうとか言われてしまう役なのだが、きっとウィル・フェレルだから許されるのだろう。まあ男の友情とかを感じようと思えば感じられるだろうが、基本的にはひたすらばかばかしいだけの映画である。その潔さにあっけらかんと笑わされていればよいのだ。ジェナ・フィッシャーが色っぽいです。

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『僕はラジオ』 ('03 アメリカ) 床屋談義も悪くないね

 『レインマン』のダスティン・ホフマンのすごい演技を見て、気になっていたこの作品を初めて見てみた。個人的な思いもあって、もう冒頭で「ラジオ」が登場したとたんに目頭が・・・。誰に迷惑をかけることもなく、ラジオを聴きながらショッピングカートを押して歩き回る知的障害のあるアフリカ系の青年。チームのメンバーがいじめたことをきっかけに、フットボールコーチのジョーンズがチームの手伝いをさせる。やがて彼は高校に受け入れられ、今日までその役割は続いている。キューバ・グッディング・Jrの演技は迫真。スタッフの談話にもあるとおり、現実には何年もかかったことを一年間の出来事として描くものの、不自然になってはならない。そういう条件をクリアするのが、演技力の確かな出演者たちであり、脚本や演出のギリギリの挑戦だろう。スポーツシーンのリアリティを確保する担当者の入れ込みも中々のものである。シンプルで力強く美しい言葉がいくつも出てくるのがよい。さて次は『レナードの朝』をもう一度見よう。

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『フライングハイ2 危険がいっぱい月への旅』 ('82 アメリカ) 石炭でもスペースシャトルは飛ぶ

 2はスペースシャトルで月に向かうというリアリティのなさや、何といってもZAZがかかわっていないので、ちょっとどうかなと思ったが、そこそこ楽しめた。主演の二人はもちろん、ロイド・ブリッジスが地上管制で指揮を執ったりピーター・グレイヴスがパイロットだったりと、前作のディテールを引き継いでいるので、違和感もなかった。相変わらず微妙な小ねたの連続で、映画パロディもスターウォーズに2001年、ウィリアム・シャトナーも出演でスタートレックも出てくる。ほかにもチャック・コナーズ、チャド・エベレット、レイモンド・バーがはまり役で登場する。まあ四半世紀前のギャグだ。難しいことは言わずに楽しめばよいです。

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『僕のピアノコンチェルト』('06 スイス) 本物の天才

 現実の天才少年ピアニスト、テオ・ゲオルギューが主演。お父さんは補聴器のエンジニア、お母さんは出版社?勤めの一人っ子、ヴィトスは、ピアノのみならず数学などにも、天才的な才能を示すが、同年齢の子どもたちとはうまく付き合えず、飛び級すればますます浮いてしまう。とりわけお母さんは彼のピアノの才能を伸ばそうとするが、飛行機かぶれのおじいちゃんのところへ行くのが唯一の息抜きである。
 天才少年が悩みながら成長していくというありがちな設定なのだが、そこは『山の焚火』の名監督ムーラーの作品だけあって、ヴィトスのなかなかしたたかなところとか、おじいちゃんの飛行機への入れ込みようとか、お父さんのとぼけた味とか、すんなりと感動モノに盛り上げないところがよい。子どもというのはこういうもの、という思い込みを裏切る監督の目線がすごい。テオ・ゲオルギューのピアノが楽しめるところもお得だが、幼少時代の子役の子がまたすごくかわいくて、ベビーシッターと大騒ぎするシーンがいちばんスキかもしれない。

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『レインマン』('88 アメリカ) そのひと言が出る感動

 最近、サヴァン症候群のドキュメンタリーを見て、改めてこの映画が見たくなった。かつてボブ・グリーン『アメリカン・ヒーロー』の感想で書いた以上のことはいまさら書けないのだが、ダスティン・ホフマンの演技はすばらしいし、自ら学習障害をもつトム・クルーズも好演、見ごたえのある作品になっている。「チャーリーがふざけた」のひと言がどんなにすごいことなのか、自閉症者とかかわったことのある人にはわかるだろう。自閉症の一症例としてのリアリティを失わない程度に、なんとロードムービーに構成してしまった脚本の手腕はすごい。

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『宇宙人の解剖』('06 イギリス/ドイツ) 持つべきものは隠れたワザありの親類知人

 これは手の込んだ、奇妙でグロテスクな作品だった。ロズウェル事件の宇宙人解剖のフィルムがあると聞かされた無鉄砲な若者が、危ない資金でそれを入手したものの、フィルムが急激に劣化し金が返せなくなりそうに。そこで身内知り合い総動員で精巧なニセモノを制作する。これが大ヒット、彼は一躍有名に。実話に基づいた、再現ドキュメンタリー的な構成だが、ネタ自身が再現ドキュメンタリーだったわけで、この重層構造が凝っていて面白いのである。アメリカだと青春ラブストーリーのネタになってしまうロズウェル、イギリス+ドイツだとシニカルさと微妙なユーモア感覚が、独特のひっかかりを生み出す、一度見たら忘れられない作品に仕立てあがるところがうれしい。

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『ヴィーナス』('06 イギリス) 古臭いオトコの憧れ

 『フェアリーテイル』でピーター・オトゥールを見て、そこそこ話題になっていたこの作品を見ていなかったことを思い出した。舞台はロンドン。快楽のためなら家庭を捨てるハンサムな男優もすっかり老いて、たまの出演依頼も死体役、かつての俳優仲間と、一人暮らし同士、喫茶店で時間をつぶす毎日。ある日、友人の身の回りの世話をするために田舎から姪の娘がやってくるが、実は厄介払い、とんでもないわがまま娘だった。友人はすっかりまいってしまうが、往年のプレイボーイは、さんざんな目にあわされてもあきらめない。そうこうしているうちに、過去に傷を負った彼女も心を開くのだが・・・。エピソードの一つ一つが丁寧につづられていて、文字通り老練のピーター・オトゥールに若い新人のヒロインも劣らぬ熱演、見ごたえのある作品だが、老人問題や老人の性を考えるというほどの重みではなくて、こんな風に死ねるとはやはりうらやましいと、老境に近づくにつれ憧れるような話と感じてしまった。

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『シッコ』('07 アメリカ) 黙っていたら殺されるということ

 介護保険制度、後期高齢者医療制度、どれもこれもなぜこの国は、医療保障においては完全に絶望的に失敗しているアメリカをまねしようとするのか。国民が知らないのをよいことに…ということはつまり、それだけメディアも無責任に政府の言い分を垂れ流しているということなのだろうが、なんのことはない、カナダでもフランスでもイギリスでも、医療はタダではないか。そういえばガソリンの税金の件ではちゃっかりヨーロッパ諸国と比較していたが。
 アメリカ人の反共感情というかほとんど条件反射のような社会主義・共産主義アレルギーを、プロパガンダは最大限に利用する。弱者への配慮や平等は「それは共産主義じゃないか!」の一言で葬り去ることができるのだ。昔のわが国の「非国民」みたいなものなのだろう。
 この映画を観る前は、私も医療保険に入っていない者と入っている者との格差の問題が大きいと思っていたが、なんともすさまじいのは、医療保険に入っていても、保険会社は過去の医療記録を洗い出し、徹底的に保険金を支払わない努力をする。だからこの物語は、すべてのアメリカ人のための物語だったが、もちろんそのまねをし続ける日本人のための物語でもある。大病院が患者を貧民街に棄てていく光景に驚いたのは、その光景そのものではなく、同じような事件が日本でもあったからである。
 取材の中で登場する英国の政治家が語っていた言葉は、そのまま日本人もかみしめ味わうべきだ。苦いけど。いわく、


「借金苦の者は希望を失い、投票もしない。体制側は投票をというがもし英国や米国の貧者が本気になって自分の代弁者に投票したら真の民主主義革命が起こる。それは困るから体制側は希望を奪う。国家の支配には二つの方法がある。恐怖を与えることと士気を挫くこと。教育と健康と自信を持つ国民は扱いにくい。ある種の人々は思ってるよ。教育と健康と自信は与えたくない。手に負えなくなると。世界人口の1%が80%の富を独占してる。よくみなは耐えていると思うが、貧しく、士気をくじかれ、恐怖心があるため、命令を聞いて最善を祈るのが一番安全だと思っているんだ。」


 小泉改革以前から、日本の政治は確実にこの方法で支配してきたのだ。
 映画としては、マイケル・ムーアのあくの強さが合わない人は多いと思うし、医療保険業界の犠牲者たちを連れてキューバにわたるパフォーマンスまでくると、さすがにどうかと思うが、そこまでの内容は案外正当なドキュメンタリーとして、素直に勉強になるといってよいのではないか。

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『フライングハイ』('80 アメリカ) それでも飛行機は飛ぶ

 さすがに今見ると古い、というのもジョーズのパロディとかやってるからだが、それでも見ているとおかしくて仕方ないポイントがいくらもあって、私は裸の銃モノより好きだ。百円均一レンタル落ちビデオテープで見て楽しんだ後だったが、DVDを借りたのは、"ZAZ"によるコメンタリーが傑作だからである。低予算なので空港のエキストラがほとんど身内か本当の通行人だとか、荷物棚にふたがないとか(言われてみればそうなのだ)、一本で二回確実に楽しめる。まあとにかく「オートパイロット」は最高だ。

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『ジョゼと虎と魚たち』('03 日本) 普通じゃないことへの一瞬の夢

 犬童一心監督、田辺聖子原作、妻夫木聡、池脇千鶴、上野樹里出演と、惹かれる要素が盛りだくさんで、期待して見ました。上野樹里ラブシーンは痛々しいほど初々しいです。池脇千鶴が妻夫木聡に迫るシーンが話題でしたが、これコメンタリー付でみると面白いです。「整形しようかと思った」「えーなんでー」みたいなやり取りで、役者さんってこんなかんじなんですかね。で、結局、妻夫木聡はいいなあ・・・ということではなくて。もしかするとすごいことになるかもしれないぞと期待しながら、やはり流されてどうしようもなく凡庸に落ち着いていってしまう。男ってダメですね。映画としてはちょっとナマナマしい感じは私にはちょっと苦手。

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